LINEと似たような使い勝手と連携機能が特徴的な「LINE WORKS」は今後の戦略を説明した。
撮影:小林優多郎
3月5日に総務省から異例の行政指導を受けたことで、舵取りに注目が集まるLINEヤフー社。その出資先の1つで、ビジネスチャットやAI関連サービスを展開するLINE WORKS(旧ワークスモバイル)は、3月12日に事業戦略説明会を開いた。
2023年4月にLINEから移管された「LINE CLOVA」 などのAI事業に関する方針と、2024年1月に実施した社名変更の経緯が説明された。
LINE WORKSの増田隆一社長は説明会に登壇し、LINEヤフーや韓国ネット大手のNAVER(ネイバー)との関係も改めて説明した。
導入46万社の韓国・NAVER Cloud子会社。法人相手の信頼構築を模索
LINE WORKSはコロナ禍のテレワーク需要でユーザー数や導入企業数を伸ばした。
撮影:小林優多郎
LINE WORKSは、個人向けメッセージアプリの「LINE」のような見た目や使い勝手を踏襲した法人向けグループウェアだ。
ユーザー30人まで、ストレージ5GBまでであれば無料でも導入でき、より本格的に利用する場合は1ユーザーあたり月額450円もしくは月額800円のフリーミアム(無料で利用が開始でき、有償機能に誘導する)なビジネスモデルをとっている。
LINE WORKSの増田隆一社長。
撮影:小林優多郎
2024年1月時点で導入社数は46万社、ユーザー数は500万人。有料プランの内訳は公開されていない。
また、LINE WORKSの強みの1つに、ビジネスアカウントとして個人のLINEアカウントともつながる機能がある。個人LINEとの接続数は2024年1月時点で2700万人となっており、増田氏は「ざっくり30%のLINEユーザーがLINE WORKSの利用者とつながっている」と説明する。
ただ前述のように、LINEを現在運営するLINEヤフーは総務省から「通信の秘密」の漏えいを指摘されている。
LINE WORKSはNAVER Cloudの子会社だ。
撮影:小林優多郎
増田氏は、LINEヤフーとLINE WORKSは別会社だと強調する。ただ、LINE WORKSの資本比率は22%がLINEヤフー、残り78%は韓国・NAVER Cloud(NAVERのB2B事業を担当)となっている。
総務省の指摘した問題の根幹には、LINEヤフーの複雑な資本関係と技術面での強いNAVERへの依存関係がある。
その観点では、LINEヤフーよりNAVERの資本比率の高いLINE WORKSのガバナンスは機能しているのかには、やはり注目せざるをえない。
LINE WORKSはNAVER Cloudへの業務委託内容を明らかにしている。
撮影:小林優多郎
この点について、増田社長は出自として「(LINE WORKSは)もともと法人向けに作られている」と語る。増田氏と共に12日の説明会に登壇したLINE WORKSでセキュリティーを担当する松本達也氏は以下のように日本での事業について整理し、「LINE WORKSは日本でガナバンスは取っている」と説明する。
- サービス開始当初から、国内データセンターで管理。インフラもLINEと共通化しておらず、専用のものを利用している。
- 開発や運営はNAVER Cloudに委託しており、アカウントの認証基盤などはグループ会社として共通している部分はある。
- オペレーションとプライバシー・セキュリティー本部は日本に設置しており、定期的な権限のチェックも実施している。
HyperCLOVA Xを安易に上陸させるのは「無責任」
LINE WORKSはさまざまなAIに関する機能を提供するが、LLMはNAVER製にこだわらないという。
撮影:小林優多郎
増田社長はガバナンスの有効性を表す事例として、NAVERが開発するLLM(大規模言語モデル)「HyperCLOVA X」(ハイパークローバエックス)を積極的に自社製品に採用していない点を挙げる。
HyperCLOVA Xは主に韓国語に特化しているが、日本語などもサポート。韓国では「CLOVA X」という名称で「ChatGPT」のような対話型生成AIサービスを展開している。
LINE WORKSがHyperCLOVA Xを採用していない理由について、増田氏は「そもそも日本にインスタンス(サーバー)がない」「AIに関する政府の方針を確認して、遵守する必要がある」と説明。
増田氏は「信用や信頼といったものがどうやったら担保できるのかを最優先に考えている」とし、「単純にサーバーを(国内で)立てて、HyperCLOVA Xを持ってきて『はいどうぞ』というのはあまりにも無責任」とする。
LINE WORKSは今後もプライバシーやセキュリティー体制の透明性を強化をしていくとし、4月には約100ページの「セキュリティーホワイトペーパー」(PDF)を公開する方針も明らかにした。
5月にブランド刷新。AIやビジネスチャットの新機能も予定
すでにコーポレートロゴは変更になっているが、アプリに関しても新アイコンが5月に反映される。
撮影:小林優多郎
ビジネスチャットのLINE WORKSは、2024年5月にブランドロゴやアプリデザインを変更する。
従来はNAVERやLINEと似た緑色のロゴだったが、新しいアプリのロゴは青色から緑へのグラデーション表現となっている。これは前述の信頼性やAI技術を使ったこれからの躍進を示しているという。
AI秘書は2023年に予告された機能だが、まだ開発中。
撮影:小林優多郎
LINE WORKSでは2023年、LINE WORKSのチャット内容から次の業務内容をサジェストする「AI秘書」の提供を予告していた。
現状、AI秘書について増田氏は「何が実装されたら客に役立つのか見極めきれていない。AIに関わる社会的な変化もある」と、まだ開発中であることを明かした。
スマホの操作がしづらいような現場の担当者ともコミュニケーションの取れる新機能が今後追加される見通し。
撮影:小林優多郎
そのほか、LINE WORKSは生成AIに関する機能や、現場とデスクワーカーをつなぐための新しい新機能もリリース予定。
詳細は毎年開催される年次イベント「LINE WORKS DAY」で明らかにするとした。