オアシスのロック復権と、再結成の理由

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15年の時を経て、15年が長かったのか、短かったのか分からないが、ノエルが「リアムが禿げているのに、オアシスなんかやりたくない」と言っていたけど、還暦前になんとか再結成してくれた。

あだ名が“ハゲ”という、とんでもない名前のもう一人のギターリスト、ボーン・ヘッドが再結成に参加することも決定している。オアシスの後に作ったバンド、ビーディ・アイが上手くいかなくなって「庭師になる」と話すほど落ち込んでいたリアムを、元メンバーとして支えたのはボーン・ヘッドなのだ。

そんなリアムだが、オアシスの司令塔だったお兄ちゃん・ノエルよりも、解散後に確かな地位を築いた。彼曰く「あいつは実験しすぎやろ」と、相変わらず鋭く批評していた。

リアムは、オアシスの奇跡の一つであり、イギリス・インディ・ミュージックの頂点だったネブワースでの二日間と同じことを、22年に一人で成し遂げたのだ。

Video: The Music Tag/YouTube


Video: MTV UK/YouTube

オアシスの頃は全ての人を魅了するプリンスのような存在だったのに対し、現在はイギリスの若い子たちから“理想のお父さん”と呼ばれる存在にまでとなった。この時のライブでは、お客さんが若いからちょっと調子に乗って、「若い子の匂いはいいな」みたいな親父ギャグをかまして、若いファンが引いていたのはちょっと笑った。

今回のオアシスの再結成には全ての世代が集まることだろう。ズケズケとものをいうのがオアシスなのだ。この姿勢こそが、格差が生まれてみんな萎縮してしまったクソみたいな世の中で、年寄りからZ世代までが憧れるオアシスの魅力だ。ハゲなんて名前のメンバーがいるバンド、いただろうか。しかし、それがオアシスなのだ。

オアシスとロックの復権

オアシスというバンドがどういうバンドかというと、ロックの歴史を体現したバンドなのだ。

ここで簡単にロックの歴史をおさらいすると、50年代アメリカの黒人が作ったロックンロールという音楽は、イギリスでビートルズという形に昇華された。そして、それは60年代の若者の革命となっていった。セックス・ドラッグ・ロックンロールだ。

“サマー・オブ・ラブ”と言われた革命は、本当に革命寸前まで行ったのだが、ロックは商業主義に取り込まれてしまった。

そんなのアカンと生まれたのが、70年代のパンク、ヒップホップだ。しかし、そんなパンクの思想も商業主義に取り込まれようとしていた80年代、またしてもイギリスで革命が起こった。新しいドラッグ、エクスタシーによる“セカンド・サマー・オブ・ラブ”、アシッド・ハウスだ。ロック・シーンにも多大な影響を与え、そこからストーン・ローゼズなどのバンドが生まれた。

しかし、マッドチェスターと呼ばれたストーン・ローゼズ、ハッピー・マンデーズなどのバンドはイギリスでは売れたが、アメリカでは理解されず、相手にされなかった。

そんなストーン・ローゼズの欠点を克服したバンドがオアシスだったのだ。オアシスはロックの復権を目指した。

ストーン・ローゼズはエクスタシーでオープン・マインドになって、パンクが否定してきたビートルズやジミ・ヘンドリックスなどもいいものはいいとして取り入れた。しかし、そんな彼らがアメリカで売れないことをインスパイラル・カーペッツのローディー(ライブ際にアーティストが使用する楽器や機材を事前に会場へ運搬、ステージ上に設置し、調整やメンテナンスまで行う仕事)をやりながら見ていたノエルは、パンクが否定したリード・ギターなんかも恥ずかしくもなく、自分たちの音楽に取り入れた。パンク、セカンド・サマー・オブ・ラブを通過した頭で、もう一度ロックをやったのだ

アメリカではほとんど同時期にニルヴァーナが登場した。ニルヴァーナの姿勢は、ガンズ・アンド・ローゼズのようなスタジアム・バンドになってしまっていったバンドへの反発だ。ガンズ・アンド・ローゼズもすぐに自分たちの間違いに気づき、パンクの曲を中心としたカヴァー・アルバムをリリーズしたが、動きだした時代の波には逆らえず、完全にニルヴァーナの噛ませ犬のような存在になってしまった。

オアシスとニルヴァーナという90年代を代表するバンドが、両者とも名前に薔薇を持つバンドと関係しているのは不思議な偶然だ。オアシスは尊敬し、ニルヴァーナは憎んだ。

オアシス、ニルヴァーナと並び、スタジアム・バンドながらパンクの精神を忘れなかったバンドに、レッド・ホット・チリペッパーズがいる。日本でオアシスとレッド・ホット・チリペッパーズがいつまでも大人気なのを考えると、この国もなかなか捨てたもんじゃないと思う。

オアシス再結成の理由とは?

しかし、なぜオアシスは今回再結成したのか。それはノエルが離婚したからではないかと考える。

ストーン・ローゼズの再結成の時も、理由はイアンが離婚したからだった。リアムはノエルの奥さんを毛嫌いしていた。そして離婚はお金が必要なのだ。一説によれば、38億円必要らしい。しかしノエルは何回も結婚するな…。どういう理由であれ、これを機会にまた仲良くなってくれたらいい。

オアシスの再結成を喜びながらもストーン・ローゼズのようにツアー中に空中分解してしまうのは悲しいと思っていたのだが、ちゃんと「Oasis Live '25」と命名しているから、25年だけのイベントなのだろう。

Video: Oasis/YouTube

あと、ブラー、ストーン・ローゼズの時みたいに、アメリカの音楽フェスでウケないような演奏するのも辛いかなと思ったのだが、今回フェスには出ないそう。オアシスの偉い所は、質問されそうなことに全部答えているところだ。ツアーの時期がグラストンベリーのため、「どうせグラストンベリーも出るんでしょ」という質問に対しても、ちゃんと「出ません」と答えている。

もう一人のギターは誰だ? ジョン・スクワイアか? ジョニー・マーか? という噂を否定するために、もう一人はボーン・ヘッドだとリークさせているのだろう。

ちなみにサポートアクトはカサビアン(KASABIAN)が決定しているよう。

そしてオアシス、日本にも来るようだ。それも2日間。みんなで大合唱しましょう。

ストーン・ローゼズは「アルバムを作る」と言っていて作れなかったが、オアシスはもしかしたら作れるような気がする。

Oasis Live '25の後にどういうように発展していくのか。全く分からないが、ロックが完全に終わったと言われる昨今、オアシスがそんな空気に風穴を開けてくれるのではないか。

昔、オアシスのレーベル・オーナーのアラン・マッギーに「アランの大好きなサイケデリックとパンクが結局主流になったよね。マイ・ブラッディ・ヴァレンタインなんか今の方が大人気だし」と言ったら、「オアシスが再結成したら、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインどころに騒ぎじゃないぞ、大変なことになるぞ、みんなロックンロールの大事さに気づくから」と答えた。

そう、みんなロックンロールが大好き。オアシスによって、またロックンロールが蘇ったらいいな。

なんとか7月25日の金曜日のロンドンのチケットが取れた。僕が初めてイギリスに行ったのは1982年のザ・ローリング・ストーンズの「レッツ・スペンド・ザ・ナイト・トゥゲザー」を見るためだった。会場も同じウェンブリー・スタジアム。なんとなく、最後にイギリスに行くのに、ちょうどいいかなと思った。

僕が初めてイギリスに行った時、ロンドンには高層ビルが一つしかなかった。今のロンドンはマンハッタンかと思うほど高層ビルが立ち並んでいる。彼らの生まれたマンチェスターも変わった。あの頃はボロボロの倉庫をクラブにするしかなかったのに、今やそこは最高級マンションになっている。オアシスは歌った。あんたの庭がどうなっているかなんて俺の知ったことじゃない、気にしない。俺は永遠に生きたいんだと。

あのロンドン・オリンピックの開会式で見たような、長い長いイギリスの歴史、それを2時間で語れるバンドは彼らしかいない。僕はそれを体験したいと思う。イギリスは変わったのか、オアシスは変わったのか、どうなのか。

Text: 久保憲司


【最新リリース】

『オアシス (原題: Definitely Maybe)30周年記念デラックス・エディション』

2024年8月30日 リリース

<2CD>

■豪華ハードカヴァー・デジブック×三方背スリーブケース仕様

■日本盤のみの仕様

・高品質Blu-spec CD2仕様

・英文ライナー訳/歌詞・対訳/新規解説 (妹沢奈美) 付

SICX30217-30218 税込¥4,400 【完全生産限定盤】

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<4LP>(輸入盤国内仕様)

■日本盤のみの仕様

・英文ライナー訳/歌詞・対訳/新規解説 (妹沢奈美) 付

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SIJP185-188 税込¥16,000 【完全生産限定盤】

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<デジタル>

配信予約リンク:https://SonyMusicJapan.lnk.to/Oasis_dm30ade


【展示会情報】リヴ・フォーエヴァー:Oasis 30周年特別展

会期:2024年11月1日(金)~11月23日(土)

会場:六本木ミュージアム

主催:ソニー・ミュージックエンタテインメント、ソニー・ミュージックレーベルズ、ソニー・ミュージックパブリッシング

後援:ブリティッシュ・カウンシル

協賛:ADAM ET ROPÉ

公式サイト:https://oasis-liveforever.jp/

公式X:https://x.com/Oasis30th

公式インスタグラム:https://www.instagram.com/oasis30th/